奈々未に


ほら

空から
雪が降りはじめた

遠い空から
ゆっくりと
落ちてくる

その

長いようで
短い
儚い
時間のことを
僕は思っていた…

さようなら

君がそう言って
背を向けて
歩き出す

君の後ろ姿が
ゆっくりと
小さくなる

小さな
君の背中

降りしきる
雪に
紛れて
もう見えない

僕は目を閉じる


君を
冬を
美しい君の

瞳を

冬の
幻の
この冷たさ
この美しさ

君の

美しさを
いつまでも
僕の心に

留めておくために

ただ目を

**


気がついたら

僕には
高い空から
落ちてくる
雪のひとひら
見えていた

高い

高い空から
それは落ちてくる
ゆっくりと
とても
ゆっくりと

停止してるみたいに

いつからだろう
そんな
雪のひとひら
君に思えたのは…

雪は

長い時間を
通って
乾いた地面に
たどり着き
そこで
静かに
そっと
消えてしまう
まるで
初めから
存在していなかった
みたいに

君も

そんなふうに
そっと
消えてしまう
いつからか
そっと消えてしまう
そんな気が
していた

君と

いつ出会ったのか
不思議なことに
僕は思い出せない
君は
この世のものじゃない
気がしてた
気がしてた
それは君が
青い空から
落ちてくる雪だから

一人孤独に

青い空の冷たい底で
生まれて
他の雪と
群れをなすこともなく
群れをなさないが故に
温かく
乾いた地面に
触れて
消えてしまう
そんな雪
孤独な雪
あり得ない世界の
存在しない雪の
この世のものじゃない
世界の雪

君は

そんな
不可能な
雪として
底冷えのする
青空で生まれた
あり得ないが故に
こんなに冷たくて
こんなに美しくて
こんなにはかない

雪 君

落ちてくる
長くて短い
儚い時間

僕には
永遠に思える
思えた
長い時間

そんな時間が
かつてあったこと
そのことを
僕は今
真夏の
雲一つない青空を
見上げて
思い出している

もし今

あの青空の底に
あり得ない
impossibleな
雪のひとひら
落ちてくるのが
見えたなら…

**


雪のひとひら
遠い高い
空で
生まれて
ゆっくりと
地上に
落ちてくる
その長い時間を
あなたは
想像したことがある?
重さがないような
雪の小片になって
ゆらゆら
虚空を
落ちていく
感覚
無限のようにも感じる
その長い時間
わたしの人生も
そんなふうに
長い時間を
空から
落ちてきたのかしら
そして
無限を落ちてきた
雪が
最後に
地面で
そっと
消え去るように
わたしも
消えて
地面で
そっと消えて


**