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空の下を私は歩く
もうそんなことはないと思っていた
そんなことはずっとないと
なのに
なんだろう この感覚
うまく言えない
ここにいるということ
なんだろう うまく言えない
私はここにいなかったから
何処にも
今 ここに いる
青い空の下を歩いている
隣には そうあなたがいる
あなたが私の手を握る
ああ 私はもうここにいる
もうどこにも帰れない
ここにしか
あなたの側にしか
私のことをじっと見つめる
あなたにどうすればいいのだろう
わたしは
わたしは…


**


夜、稲妻が閃くと
驚くほど明るい
青空が見えることがある
そんなふうに
私の恋は
終わって始まった

あなたは
いつ私の前に
現れたのだろう
空は明るいのに
急に滝のように
降ってきた雨に
傘も持たない私が
雨宿りする場所もなく
名前も知らない
白い花の前で
立ちつくしていた時
あなたもそこにいた
のではなかったか
私の耳で聴こえない
雷鳴が鳴っていた
あの夏の午後

昨日の記憶はない
何も覚えてはいない
でもどこか
懐かしく
記憶のない現在に
あなたはいる
あなたはどこから
来たのか
何故
私の前にいるのか
答えはない
答えは
一瞬の青空と共に
あの時消えてしまった
のかもしれない
聴こえない雷鳴のように
私の耳でずっと鳴って
いるのかもしれない
そして
あなたはいる
私の前に
過去もなく
現在もなく
未来もなく
私の前に
あなたの微笑みだけが
あの時
辛抱強く
雨に打たれていた
fragileで
それでいて
どこかたくましい
あの白い花のように
在る

ここから
どこへ行けばいいのか
どうすればいいのか
あなたは何も語らない
ただどこか遠くを見て
微笑むだけ
私はわからない
私には何もわからない
ただ
あなたがするように
どこか遠くを見てみる
それはあの日
稲妻と同時に閃いて
消えた天上の空の
ことなのかもしれない

そう
私の過去も現在も未来も
全ては
終わって始まった
あの日
あの白昼の
光る稲妻に一瞬見えない
夜のかいま見えた
あの時

そして今
私はあなたを深く
愛していることを
知る

**


しずかに流れる
音のない水に
花のように
ただよう顔を

誰もが見ていた
見ていなかった
忘れられていた

美しい水の
底へ
オフェリア
おまえは
長い眠りから
さめて
溺れるように
息をすい息をはき
愛しい人をさがし
始める

**


冷たい風が
長い髪を乱し
顔に容赦なく
吹きつけるのを
嫌っていた
公園の木々が
空に広げる
裸の貧しい枝
底冷えがして
白い雪が
ちらちら落ちてきて
空は灰色の雲で
覆われていた日々
あんなに春になるのを
待ちわびていたのに
ある時
光の中に
冬の終わりを予感する
この喪失感はなに?
あなたはそんなふうに
私から去って行ったのを
思い出す
去年の今頃も
そしてずっと前から
あなたはこうして
私から去って行った
残された私の気持ちなど
まるで関心ないように
君は僕のことを
忘れるだろう
近づく春の
優しい足音とともに
僕の存在は次第に
希薄になっていく
君はもう僕の顔を
本当は見ていない
私はあなたのことを
愛していたの?
この心の欠けた感じは
私には決して
満たされることは
ないもののように思える
君は僕を忘れていく
少しずつ
そして完全に
忘れたことさえも忘れて
でも僕は
再びやって来るだろう
長い情熱的な
君の夏が終わり
色づいた木々の葉を
散らす
最初の冷たい風となって
君の心に
嫌悪と深く秘められた
愛を
また見つけ出すために

**


三月には
淡い悲しみが似合う
終わった冬を
誰も弔わない
わたしは弔う
わたしはあなたを憎んで
愛していたから
あなたが死んだいま
わたしは…
わたしはどうすればいいの
この明るい光の中で
世界の再生を告げる光の中で
あなただけがいない

**


こうして
あなたはわたしに
わたしはあなたに
たどり着き
この見棄てられた
時間と場所で
ふたりは
たがいの瞳に
互いを映し
手と手をからめ
唇に唇をかさね
二人だけのものになって
遠くからきて
遠くまでいくように
愛しあい
死んだように眠り
スコールの
遠い雷鳴がきこえる
世界のない
二人だけの時間に
迷いこんで
帰れない
出口の見つからない
ラビリンスの
永遠の愛の休日に
ふたりは溺れる

**


届くはずのない言葉
空しく立ち止まり
語られず
あなたの耳の
愛の言葉に
かぎりなく
やさしくささやかれて
消えていくの
どこへ?
悲しみの挨拶は
あなたが
見ることのない
微笑みの
向こうに
あなたの唇の
求めることのない
甘い接吻で
生まれては
死に
あいまいに
宙に
ゆれる
あなたの手の
触れることのない
この言葉たちの
乳房のように
わたしの胸で
空しく
待ち続け
どこにも何にも
たどり着くことのない

うつろな愛をえがく

**


そして終る
音のしない雷鳴の
ゆっくりと
空を走る稲妻のように
わたしは遠ざかっていく
誰よりも近い
あなたのほうへ
もう一度
見つけて失うために
心の底へと
沈んでいくために
浮き上がる
涙が
生まれては
そこで
しずかな時間を
永遠に
繰り返す
その場所で
もう一度
失なうための
最後の優しいキスを
交わす

**


愛よりも
君よりも
悲しい世界を僕は
見たことがなかった…

ああ
青空
あの青空へ向かって
墜ちていきたい
どこまでも
きっと
生まれてくる
僕は
君に
会いに
それは
悲しみを知ること
だとしても
純白のイノセンス
失っても
君に会いたい
たとえ
一瞬で
君のことを
忘れてしまうとしても
君ほど
悲しい世界は
見たことがなかった
たとえ墜ちていく
としても
忘れてしまうとしても
君を
生きなおすために
君を生きるために
もう一度
何度でも

**


そして
君もまた
どこかで
僕のいない
時間を
僕の知らない誰かと
生きて
こうして
老いてきてるのだろうか
僕のいない
時間を
君は生きて
僕の知らない
しあわせ
悲しみ
君の人生の時間を
生きてきたのだろうか
その長い時のあいだ
どこかで
まだ
そのままで
どこに行きようもなく
途方にくれて
時の
片隅で
忘れられて
あの時の
僕たちは
見つめあったままの
微笑みに
永久に
とり残されたままでいる

**


忘れたくない
忘れたいこと
思い出したくない
思い出すこと
もう遠いことだと
いつも言い聞かせてた
顕微鏡で見ないと
分からない遠い昔のこと
(望遠鏡?)
なにげない景色
夕方の人混み
ホ-ムに入ってくる電車
わたしを待ち伏せして
不意打ちする水曜日
なんでこうなんだろう
もう忘れたい
遠い昔のこと
涙の記憶
どこで漂っているの?
望遠鏡の中で
あなたが小さく
微笑んでる
流れていく街
流れていく人
思い出せない
もう思い出せない記憶
でも
でも
わたしを不意打ちする
涙の記憶

**

愛してるって
言葉は聞きあきた
それは水曜日のように
あたしの耳に
ささやきかける
愛してるって何?
それは見知らぬ顔
のようにやって来て
わたしの頬に
キスをして
やさしい傷を残した
これが愛なの?
答えのない答
透明な涙がこぼれる

**


この世界のずっと向こうにいや今ここに君の目の前に君が見ようとしない君が日々埋め殺してる愛があるんだ…愛の過剰の中で忘れられて死んでいく愛があるんだ

誰もが愛を求めてる
誰もが愛を見捨ててる
求められた愛
死んでいく愛
求められた愛が
愛を殺していく
愛が愛を殺していく
君には愛が愛を求めてる
叫びが聞こえないの?

この愛は
無視してもいいの?
この愛は
無視されてもいいの?
この愛は
見捨ててもいいの?
この愛は
見捨てられてもいいの?

君の求めてる愛って何?
何?

愛が愛を求めてる
瓦礫の下で
まだ息をしている
愛を救う人はどこにも
いないのか?
君は救おうとしないの?
君の求めてる愛って何?

愛が愛を殺してる
君が僕を殺してる
僕が君を殺してる

**