七瀬に



そう

夢を見ていたの

生きていると思った
愛してると思った
死んでいると思った

ただ夢を見ていただけ

あなたを愛してる
と思った
息もできないぐらい
苦しくて
暗い闇を
切なくて
あなたに会いたくて
走った

暗い闇に
足を踏み外して
墜ちていった
ゆっくりと
墜ちていった

あの日わたしは
あの場所で死んだと
思った
もうあなたに
会えないと思って泣いた
涙が虚しく
明けていく空に
墜ちていった

雨が降っていた
夏の雨が降っていた
冬の雨が降っていた
激しい雨が
優しい雨
涙が雨になって
雨が涙になって
やさしく
激しく
流れていた

流れていく時を見ていると
思っていた
未来が何処かに辿り着くと
思っていた
流れ星が流れて
宇宙の何処かにきっと
辿り着くように

雨が降っていた
記憶の中で
何処か遠いところで
何処か遠いところに
あなたは行ってしまう
行かないで
わたしの声は
わたしの声は
もう届かない
あなたの後ろ姿を見ている
あなたには後ろ姿しかない
わたしの声は
わたしにしか届かない


雨の中で
わたしは一人
あなたの優しい腕に抱かれて
そう
ただ夢を見ていただけ

遠くで
雨が降っていた
雨に滲んでいく…
あなたは何処に行ったの?
わたしは何処にいるの?
あなたは生きているの?
わたしは死んでいるの?
愛していたの?

雨の音

雨の音

雨が聴こえていた

雨が聴こえている

聴こえているのは

雨 雨 夢降れ


わたしは…

そう

ただ夢を見ていただけ


**


三月の雨 わたしは好きだ
部屋で あなたと 二人 はなしをする
話すことがなくなれば
ただ雨の音を聴いていればいい

そう ただ
雨の音を聴いていればいい
そして 互いに 寄り添っていればいい
そのまま ずっと ずっと


世界が終わったことも知らないで


**

雨の日
幽霊が出るって
本当だ
雨の日
傘をかざして
人はみな幽霊になる

雨の日
わたしは幽霊になる
わたしはここにいなくなる
雨音
雨の降る音
を聴きながら
わたしは
わたしの
外に出ていく
わたしはここにいない
傘の下にいない
わたしは雨粒になって
暗い街に降り注ぐ

雨の日
わたしは
わたしの
失くした人たちに
再び出会う

静かに降る
夜の雨を聴いていると
あなたが
わたしの側に
まだいる気がしてくる
あなたも
雨を聴くのが
好きだった

雨があなたを
連れてきてくれる…

雨の音を
聴きながら
わたしは
どこに行くのだろう
どこにいるのだろう
わたしは
遠い空のどこにいるのだろう
暗い街のどこに
降っていくのだろう
わたしは
また自分のもとに
帰って来れるのだろうか
もとの自分に
戻って来れるのだろうか

雨…


**



やさしい雨
わたしは 思う
このやさしい雨が
止んだ時
いなくなっていればと
晴れた空
わたしはもういない

**