そうして わたしは歩き出す


そうして
わたしは歩き出す
明日に向かってではない
わたしに明日はない
なにか知らないものに
向かって
わたしはどこを見ればいいのかも
わからない
わたしの眼は役目を失なって
いるだろう
見えていても何も見えてはいない
わたしの
不確かな足取り
それでも
わたしは歩き出す
何故だかは分からない
それはわたしが
何故だか分からないが
この世に生まれてきたような
ものだろう
わたしの先に何が待っているのか
何も待っていないのか
いや 誰かに待っていてほしい
わたしの知っている人
いや
わたしの知らない人
わたしの失くしたもの
わたしが初めから持っていなかったもの
わたしが存在することすら
知らなかったものを
わたしは見い出すのだろうか
真っ暗な闇がわたしを
待っている
いや輝く光
わたしは眩しくて何も
見えないのだろう
わたしは歩いていると思っている
だけなのかもしれない
わたしはどこにも向かっては
いないのだ
たぶんそういう観念はもう
役に立たないということなのだろう
わたしは何も見ないし
何も聴かないし
何にも触れることはない
そのようにして
何かを見て
何かを聴いて
何かに触れるのだろう
古めかしい神学の教えを
わたしは思いだすのだろう
それでも
わたしはあなたを見たいのだ
あなたを
あなたの声がわたしに
語るのを聴きたいのだ
あなたの手がわたしの頬に
触れるのを感じたいのだ
あなたの姿をわたしは
知らない
あなたの声をわたしは知らない
あなたの手の温もりを
わたしは知らない
わたしはそれら全てを思い出す
思い出すという言葉の意味が
なくなってしまうように
思い出す
そしてわたしはあなたに
抱擁されている自分を
見出すのだろう
一度も会ったことのなかった
あなたの腕の中で長い夢から
覚めることになるのだろう
わたしはそう思いたい…