わたしは幸福でも不幸でもない

地獄へ落ちる人
天国へ行く人

わたし?

わたしはどこにも
いかない
わたしはここにいる
あるいはそこにいる

幽霊?

さぁどうかな…
でも怖がらないで

わたしは
ただあなたたちを
見ているだけだから

見ている、だけだから…

あなたたちの
喜びや悲しみ
幸福や不幸が

わたしを通りすぎていく
わたしを通りすぎていく

わたしは
幸福でも不幸でもない
わたしは

ただ見ているだけ
ここにいて
そこにいて

あなたたちの快楽
悲惨、

遠ざかっていくのを
ただ見ているだけ

(誰かわたしを助けて
って言っても
聴こえないか…)

その他

**


血が流れてるのに

気にしないでいつものことだから

血が流れてる

流れてる

君の涙
君の体
君の言葉
君の思い

血が流れてる

いいの
気にしないで

流れていく
君の

君は
流れていく

どこへ?

僕はいっしょに
行けないの?

流れていく
流れて

やがて
消えて
消えていく


粒子
かつてあったもの
またいつかあるもの

君もまた
僕もまた

**


狂った世界で
明るく生きている人たち
その明るさは
何の役にも立たない
ただ明るく
地獄へ向かって
行進していくだけだ
地獄は明るい人たちで
溢れるだろう
僕は一人で
天国から見てるよ
地獄の明るさのおかげで
すっかり
暗くなってしまった
天国から

悲しみは地獄から
追放されて
天国を満たしてる
地獄からは
明るい阿鼻叫喚が
聞こえてくるよ
悲しみに満ちた
天国には
僕しかいない
僕にできること
ただ地獄の明るい光を
浴びて暗くあること
地獄へ向かう明るい
行進に背を向けて
後ろ向きであること
だって
天国は君たちの
後ろにあるんだから
暗く薄汚れた天国
君たちは
スマホ観ながら
通りすぎて
しまったのさ
もう引き返せないよ
地獄を天国と信じて
明るく生きていくこと
しかないさ
百年の後には天国の
扉が開くこともある
それまで

**

一日の終わりと始まりの間の

一日の終わりと
始まりの間の
かくも繊細な
灰色の光の中に
ひそかに
横たわる君の身体
灰色の身体
白と黒のグラデーションの
美しい起伏

音のない
色のない
ただ
淡い灰色の光にひたされた
輪郭のない
もうひとつの世界
もうひとつの時間

むしろ
世界のない世界
時間のない時間
ただ終わりと始まりの
あいだにしか存在しない
存在しえない
時間

失われた恋人たちの
恋人たちの失われた
時間
僕はこの時間を
君と二人で
生きることをどれだけ
望んだろう
たとえ白昼の世界を
失なって
永遠の薄明に
生きることになっても

この
儚い時間を
束の間
灰色の美しい砂漠
のような
君の身体の
側で
ずっと

三月の雨

三月の雨 わたしは好きだ
部屋で あなたと 二人 話をする
話すことがなくなれば
ただ雨の音を聴いていればいい

そう ただ
雨の音を聴いていればいい
そして 互いに
寄り添っていればいい
そのまま
ずっと

ずっと

世界が終わったことも知らないで

ずっと遠い昔のこと…

明けていく
空をわたしは見ていた…

どこかで
もう一つの命が
ずっと昔
あなたと二人
こうして空を見ていた
気がする
わたしたちの
星をめぐる
大きな月
白い月が
ぽっかり青い空に
浮かんでいて
その月に
いるはずの
わたしの
失くした
大切な人を思って
わたしは泣いた
あなたは
その涙を拭いてくれた
ずっと遠い昔のこと…

あなたは今どこに行ったのだろう
わたしは今どこにいるのだろう

手を伸ばせば
つかめそうな
大きな月
空に
浮かんでいるのが
不思議なくらいの
大きな月
涙がにじむのは
あなたがそこにいる
からかもしれない

わたしは
ずっとこうして
空を見ていた
遠い過去の今も
遠い未来の今も
こうして見ていた
わたしたちの
星をめぐる
大きな月
空に
不思議に
浮かぶ球体を

遠い昔
遠い未来
忘れた顔に
何度も
出会い
何度も
忘れて
忘却のふちに
沈み
忘却のふちから
よみがえる…

Sky is so blue

Sky is so blue and so high
and so sad like me
わたしは蒼くもなく
高くもなく
わたしは 何をする
この世界で
わたしは笑う
わたしは泣く
いつまで
そう わたしはいつまで生きる
ただ笑って
ただ泣いて
わたしはいつまで生きる
世界を憎んでいた わたし
世界を愛していた わたし
今 わたしは世界を憐れんでいる
もう世界を憎んではいない
愛してはいない
世界は世界
Let it live let it die
わたしは蒼くもなく
高くもなく
わたしは何をしている この世界で
笑って
泣いて
いつまで
そう いつまで

カーテンを開けないで

ほら
大きな夜の
帳が降りてくる
黒い影のように
街を覆っていく
君が
あんなにきれいって言った日没の光も
もう見えない
さあカ-テンを閉じて
部屋に灯りを点けよう

カ-テンを
開けないで
外には何もないから
君の見たいもの
僕たちの見たいものは
何もないから
このまま
このまま優しい夜に
包まれて
僕たちは生きていく
このずっと続く夜
たとえ
この夜が
このまま明けないと
しても
僕たちはきっと
幸せなんだ
光は部屋の中に溢れてる
外に出る必要なんて
何もない
外には何もない
君ももう
あの美しかった夕焼け
のことは口にしない
君の目はもう何も見て
いない
あの美しい夕焼けは
たぶん
本当は存在しなかった
君の病んだ心が
作り出した幻
だって
僕たちは知ってる
この夜は
明けたことがない
明けることがないことを
だからもう
心を存在しないものに
向けて苦しむのは
やめよう
この部屋には
充分な光がある
僕たちはここで
こうして死ぬまで
幸せでいられるさ
幸せの意味を僕たちは
知っている
外には何もない
何も見えない
優しい夜の帳が
あるだけ
これが幸せ
僕たちの幸せ
僕たちは幸せなんだ
カ-テンを
開けたらだめだ
夜明けも夕焼けもない
この部屋の明るい光が
僕たちの希望
幸せ
ここでほら
僕たちはこんなに
明るい
.